勇気を出して

夏に棚に上げたチェロ(もちろん、実際に棚の上にしまったわけではない)の再開の時期を探る。
習う先生は職場からすぐの所に決めてある。面識はないが、何より利便性。
ちなみに練習場所は職場。自宅ではあんな大きな音は出せない。仕事が終わってから思う存分音を出せるのはありがたい。ゆえに、楽器は職場に保管。と、いうことで必然的にレッスンは職場近くで、という選択になる。
何度もレッスン場の前を通っているが、いつ、どのタイミングでおじゃまして良いのかわからない。音がしているときはレッスン中だし、レッスンが終われば先生はどこかに行ってしまうし…。
この3週間ほど、無意味にレッスン場の前を通るようにしていたが、ついに来た。この日が!!!

先生が、生徒さんを送り出して戸口に立っているところに行き合わせた。

今だ!

「私、ナランと申します。チェロしたいんです。やったことないんですが、習わせて下さい」一気に口上を言いきった。
穏やかそうな、その先生は、ナランがこのところウロウロしているのを知っていたようで
「存じてます。じゃあ、いつにしますか?」
と、翌週の同じ木曜日の時間を提案して下さった。

唯一の問題は、その瞬間たまたま、くだんのL氏が後ろを通ったこと。
ふっと微笑みながら無言で通り過ぎたのをナランは見逃さなかった。
数日後、
L 氏:「やめたって言っていませんでしたか?」
ナラン:「いえ、自分だけでやるのはやめたんです」
L 氏:「まあ、習った方が良いでしょう。頑張ってください」
いたずらっぽい目で笑うL氏
子供がちょっとできそうもないことにムキになってこだわっているのを「しかたないなぁ、納得いくまでやらせておくか」と、いうような大人の眼差し。

ああ、来週の木曜日が待ち遠しい。